2010年06月10日

吉野弘「夕焼け」


吉野弘詩集 奈々子に (豊かなことば 現代日本の詩 6)

吉野弘詩集 奈々子に (豊かなことば 現代日本の詩 6)

  • 作者: 吉野 弘
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 2009/12/19
  • メディア: 単行本


中学1年の国語の自習時間でした。
問題集を解いていたら、吉野弘さんの詩(「夕焼け」)でどうしても正解できない設問がありました。

「三度目にとしよりが目の前に立った時、どうして娘は席を譲らなかったのでしょうか」

私なら恥ずかしくてやめると思います。
満員電車で、みんな知らんぷりしてるのに、自分だけ何度も席を譲っていたら、恥ずかしくてやめます。


だけどそれは不正解。
何度も何度も考え直して、結局わからなくて、友達に答えをみせてもらいました。
答えはあっけないほど単純でした。

「すわりたかったから」

そんな解答でいいんだと拍子抜けしたのを覚えています。
思い出すと当時の私は「夕焼け」みたいにキリのないことをしていました。


夕焼け

いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさと としよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。

娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。

二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッと噛んで
身体をこわばらせて――――。

僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。

やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。

やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持で
美しい夕焼けも見ないで。

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posted by 亀有夕子 at 01:09| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月08日

吉野弘「祝婚歌」

吉野弘詩集 奈々子に (豊かなことば 現代日本の詩 6)

吉野弘詩集 奈々子に (豊かなことば 現代日本の詩 6)

  • 作者: 吉野 弘
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 2009/12/19
  • メディア: 単行本



初めて吉野弘さんの詩に触れたのは、中学時代の現国の教科書から。
私の解釈と問題集の模範解答が全く違っていて、何度も再提出させられた記憶があります。
詩の読解は得意なほうだったので、忘れられない出来事でした。
10年くらい前、文具店のポストカードコーナーで「祝婚歌」という詩を見つけました。
作者は吉野弘さんで、中学時代に習った「夕焼け」を思い出させる内容でした。
この人の詩の世界観が好きです。
調べてみたところ著作権云々にこだわらない方だそうで、とてもいい作品だから紹介したいと思います。

祝婚歌
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいてるほうがいい

二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい

立派でありたいとか
正しくありたいとか
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい

健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい

そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい


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posted by 亀有夕子 at 11:51| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月28日

阿部潤「パパがも一度恋をした」


パパがも一度恋をした 1 (ビッグコミックス)

パパがも一度恋をした 1 (ビッグコミックス)

  • 作者: 阿部 潤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/01/29
  • メディア: コミック




吹きだすくらいおかしくて、最近一番のお気に入りです。
いきさつはよくわからないのですが、とにかく死んだ妻が生き返ったそうです。
だけどそれは中身だけで、外見はオッサン。
いとしい多恵子に抱きつきたくてもその都度萎える夫の吾郎。
オッサン・ビジュアルの妻を前に、一瞬で愛を失う微妙な男心。
その悲哀ぶりとセリフまわしがメチャクチャおもしろいんですよ、このマンガ。

週刊スピリッツ連載中「パパがも一度恋をした」(阿部潤)
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今週号に至ってはテニス・サークルで熱烈アタックされる多恵子。
オッサンに見えるはずの多恵子が、素敵コーチには実物(美人妻)に見えるという不思議。
動揺する吾郎。
そこでどちらが夫にふさわしいか勝負を挑むのですが、その戦いが実にくだらない(笑)。
これ、実写化したら笑えるかな?
マンガならではのギャグで妙にハマりますよ(笑)。
posted by 亀有夕子 at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月23日

紫門ふみ「はんなり!」Part3

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ゆみちゃん、大胆な行動にでました。
「修治さん、あたしを抱いてください」
弟の弦と結婚してくれと頼む修治に、ゆみが出した交換条件。
「おかしいで、ゆみちゃん、いつものあんたとちゃう!!」
こうなったら、修治がどんなに拒んだところで一歩も譲りません。
守りたいと思っていた女の子が突然いっぱしの女になると、百戦錬磨のプレイボーイもタジタジです。

松本隆さんが書き下ろした映画「Wの悲劇」主題歌(薬師丸ひろ子主演)「WOMAN」みたいです。



「それまで少女っぽかった子が急に女に変貌するときってあるじゃない。
 そんな女性観を詞にしたかったんだ。」
(松本隆「風街図鑑」より)

修治がどんなに「その気はない」とウソぶいても、惚れた女を素っ気なく抱けるはずがありません。
ゆみは愛されてることに気づいたはず。

残念なのは、ゆみの手を振りほどこうとするシーン。
あれ、連続アップじゃなくて2コマ目は全体像にしたほうが絵的にわかりやすかったんじゃないかなぁ。

スペリオールは不自然なコマ割りのマンガをよく見受けます。
左向きの顔が連続するのは「ダクションマン」(猪熊しのぶ)とか、「総理の椅子」(国友やすゆき)とか。
左向きの顔は描きやすいけど、そればかり続くと不自然なコマ割りになって読者は違和感持つんですよね。
作者にとって描きやすいマンガと、読者にとって読みやすいマンガは違うってことかしら。


posted by 亀有夕子 at 12:12| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月24日

紫門ふみ「はんなり!」Part2

今週のビックコミック「スペリオール」、紫門ふみの「はんなり!」から。
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読んでみた感想は・・・厳しい展開になりましたね。

古九谷をもらえるならこのまま失踪しようと考えていた修治。
修治に人としての美があることを認めた上で古九谷を割る兵衛。

「美は物のカタチではない。割れても残る。」

思いきった兵衛の行為から修治は何を悟るのか。
修治の役目は残された家族を守ること。

弟の弦は見習いにきたゆみに惚れている。
兄の修治を慕い、技術だけでなく審美眼まで忠実にマスターするゆみ。
弟子として、女として、ゆみに特別な感情を抱く修治。

その価値を知りながら割ってしまった古九谷のように。
修治も同様の選択を迫られる。
愛はカタチじゃない
ゆみの気持ちを知りながら、弦と結婚してくれと頼む修治。
身勝手な放浪人を装って、独り身がいいと嘘ぶって。
修治もツライけど、これゆみちゃんツライわ。
壊れた二人の関係から、はたして愛は残るのか。

表面だけでとらえたら、修治はゆみに何の感情も持っていないことになります。
そんなメッセージをまともに受けたゆみは号泣するしかありません。
恋愛感情はエゴを含んだナマモノだから、師弟関係とごっちゃにすると、本気で育てたい逸材が台無しになることもあります。
傑作「考える人」を創ったロダンと愛人カミーユみたいに。
逸材かどうかわかりませんが、記憶に新しいところでは小室哲哉と華原朋美も同様でしょう。

師として尊敬され男性として好意を持たれたら、誰だって悪い気はしません。
弟子から刺激を受けて生まれる作品もあるでしょう。
そんな甘美な関係が招く最悪の事態の多くは、「けじめがないこと」が原因です。
師弟関係の領域を恋愛感情で曖昧にすると、破局した際にただの失恋では済まなくなります。
愛情にはカタチがないからこそ、けじめをつけなきゃいけない。

ゆみが日夜古美術の勉強に励んでいることを知り、修治はますますストイックになります。
今までのような女性関係でつきあっちゃいけない相手。
ルーズな修治が自分の想いにけじめをつける、その行為自体がゆみに対する最高の愛情表現なんですね。
女性の心は傷つきますが、カミーユや華原朋美みたいにボロボロになることを思ったら愛されてますよ、十分。
posted by 亀有夕子 at 11:21| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー(本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする